新着情報

相続法改正連続講座第7回~相続による権利の承継に関する規律~

皆様、こんにちは。
今回の青山通信も、相続法改正に関する連続講座をお送りします。
第7回のテーマは「相続による権利の承継に関する規律」です。

 

 


 

 

皆様こんにちは。弁護士の吉川です。

 

 

今回は、相続により権利を承継した場合の第三者との関係についての規律の変更点をご紹介いたします。

 
 
 
 
 
 
1 改正前
 
 
 
 

 遺産分割により権利を承継した場合、法定相続分を超えた権利を取得した相続人は、対抗要件(登記など)を備えなければ、法定相続分を超えた分の権利の取得を遺産分割後の第三者(他の相続人が当該相続財産を売却した場合の買主など)に対抗(主張)できません。

 

 

 

 他方、これまで「相続させる旨の遺言」(「不動産①を相続人Aに相続させる」といった内容の遺言)については、判例により、権利を承継した相続人は対抗要件なくして法定相続分を超えた部分の取得を第三者に対抗できることとされていました。また、遺言により法定相続分を下回る相続分を指定された共同相続人が法定相続分に応じた持分を処分した場合でも、他の相続人は、対抗要件なくして指定相続分を第三者に対抗できるとされていました。

 

 

 

 しかし、この場合、第三者から見れば遺言の有無や遺言の内容はわからないにもかかわらず対抗要件なくして主張できるため、取引の安全が害されるおそれがあるなどの問題がありました。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
2 改正後
 
 
 
 

 そこで、今回の改正では、

 

 

「相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び901条の規定により算定した相続分を超える部分については登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない」(民法第899条の2第1項)

 

 

 とされました。

 

 

 これにより、法定相続分を超えた分の権利の取得について第三者に対抗するには、例外なく対抗要件を具備する必要が生じます。対抗要件としては、不動産なら登記、動産なら引渡し、債権ならば債務者に対する通知又は債務者の承諾(債務者以外の第三者なら確定日付のある証書による通知又は承諾)などがあります。

 

 

 

 なお、債権の場合には、相続人全員で協力して通知を送ることができればよいですが、相続人間で協力が得られない場合には通知できずに対抗要件を具備できないおそれがありますので、「前項の権利が債権である場合において、次条及び901条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する」(民法第899条の2第2項)とされました。

 

 

 

 もっとも、あくまで法定相続分を超える権利承継部分についての規定ですので、法定相続分による権利承継部分については、今までどおり対抗要件なくして第三者に主張することができます。また、あくまで第三者との関係の規定ですので、相続人間では対抗要件なくして権利を主張できます。

 

 

 
 
 
 
 
 
 
3 まとめ
 
 
 

 

 今回ご紹介した点は、改正によりこれまでの判例・実務と真逆の結論になります。「相続させる旨の遺言」(改正法では「特定財産承継遺言」という名称になっています。)だった場合でも、うっかり不動産の所有権移転登記手続をしていなかった…といった場合には第三者に自己の権利を主張できなくなる可能性がありますので、ご注意ください。当事務所では遺産分割、遺言書の作成・執行に関するご相談にも対応しておりますので、お気軽にご相談ください。