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相続法改正連続講座第10回~遺言執行者の権限の明確化~

皆様、こんにちは。
今回の青山通信も、相続法改正に関する連続講座をお送りします。
第10回のテーマは「遺言執行者の権限の明確化」です。

 

 


 

 

皆様こんにちは。

弁護士の栁瀬でございます。

今回は、令和元年7月1日から施行された改正相続法における「遺言執行者の権限の明確化」についてご紹介いたします。

 

 
 
 
 
 
 
1 遺言執行者とは
 
 
 
 

 相続人が遺言の内容を実現しようとするとき、相続人間の利害対立によってその実現が困難になる場合があります。せっかく遺言を作成したのに、その内容を実現できないのでは意味がありません。このような場合は、遺言の内容の実現を第三者に任せた方が適切です。そこで、民法は、遺言を執行する者=「遺言執行者」の選任を認めています。遺言執行者は、①遺言者や遺言者から委託を受けた第三者が指定して選任するパターンと、②利害関係人の申立てにより家庭裁判所が選任するパターンがあります。

 

 

 

 
 
 
 
 
 
2 遺言執行者の権限の明確化の趣旨
 
 
 
 

 

 遺言執行者は、遺言の内容に基づき、権利移転の実現や、それに必要な事務手続を行います。したがって、本来的には、遺言者の代理人としての立場を有しています。ところが、旧民法では、遺言執行者の責務や権限が明確にされていませんでした。旧民法第1015条は、「遺言執行者は相続人の代理人とみなす。」と規定されていたため、遺言者の意思と相続人の利益が対立すると、遺言執行者と相続人の間でトラブルになるケースもありました。

 

 

 そこで、今回の相続法改正において、これまでの遺言執行実務における取扱いを踏まえて、遺言執行者の責任や権限を条文で明確化することになったのです。

 

 

 以下では、主な改正内容について簡単にご紹介します。

 
 
 
 
 
3 改正内容
 
 
 
 
 

(1)遺言執行者の相続人への通知義務

 

 

 旧民法では、遺言執行者の相続人への遺言内容の通知について明文規定が存在せず、相続人の知らないところで遺言執行者が預金を解約し、トラブルになる場合がありました。そこで、新民法第1007条2項は、遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。としました。

 

 

 

(2)遺言執行者の権限及び法的地位の明確化

 

 

 旧民法第1012条1項は「遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」とし、他方で、旧民法第1015条は「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。」としていました。このため、遺言執行者の立場が不明瞭であり、遺言執行者と相続人との間でトラブルが生じることがありました。そこで、新民法第1012条1項は、「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」とし、新民法第1015条は、「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生じる。」としました。これによって、遺言執行者の職務権限が明確になりました。

 

 

 

(3)特定遺贈における遺言執行者の権限の明確化

 

 

 旧民法では、遺贈の履行者について明文規定がなく、遺贈を受ける者(受遺者)は誰に遺贈の履行請求をすればよいか分かりにくい状況でした。そこで、新民法1012条2項は、遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。とし、遺言執行者に履行請求すべきことを明確にしました。

 

 

 

(4)特定財産承継遺言の場合の遺言執行者の権限の明確化

 

 

 旧民法では、遺産分割の方法の指定として特定の遺産を特定に承継させる遺言(特定財産承継遺言)について明文規定がなく、遺言執行者の権限の内容や範囲について争いがありました。そこで、新民法第1014条2項は、特定財産承継遺言について、遺言執行者は、当該共同相続人が民法第899条の2第1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。とし、遺言執行者において不動産の登記手続や動産の引渡しができることにしました。また、新民法第1014条3項は、特定財産承継遺言の対象が預貯金である場合、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。とし、遺言執行者において預貯金の解約申入れができることにしました。

 

 

(5)遺言執行者の復任権

 

 

 旧民法第1016条は「遺言執行者は、やむを得ない事由がなければ、第三者にその任務を行わせることはできない。」とし、遺言執行者が第三者に執行を代わってもらえる場合を制限していました。しかし、例えば、親族等が遺言執行者に指定された場合、法律知識を有しておらず、弁護士等に依頼しなければ適切な遺言執行ができないことがありました。そこで、新民法第1016条は、遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。とし、「やむを得ない事由」という要件を撤廃しました。

 

 

(6)相続人の行為の効力・相続人の債権者の権利行使

 

 

 旧民法第1013条1項は「遺言執行者がある場合には、相続人は相続財産の処分その他の遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。」とし、判例解釈上も遺言に記載された内容とは異なる財産処分が行われた場合、このような処分は絶対的に無効とされてきました。しかし、これでは事情を知らずに財産を取得した第三者に酷な結果となります。そこで、新民法第1013条2項は、原則として遺言と異なる財産処分を無効とした上で、ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。とし、遺言の内容を知り得ない第三者の取引の安全を保護しました。

 

 

 また、新民法第1013条3項は、原則として遺言と異なる財産処分が無効であることを前提に、それによって相続人の債権者等の権利行使が妨げられるのは相当ではないとの配慮から、前2項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。と規定しました。

 

 

 

4 改正による影響

 

 

 今回の遺言執行者の権限の明確化は、遺言執行者の適切かつ迅速な職務執行に資するようにするため、主にこれまでの遺言執行実務の判例・通説を明文化したものになります。他方で、特定承継遺言における遺言執行者の権限や、相続人の行為の効力等については、これまで問題があった点を改善するべく新たな条文を規定しています。この点については、実務上の運用が変わる場合があり得ます。

 

 

 

5 まとめ

 

 

 相続の場面では、たとえ適格な遺言書を作成したとしても、相続人間の対立によって遺言の内容が実現困難になる場合があります。せっかく遺言書を作成したのに、結局は相続トラブルになってしまう。そのような心配事を解消するためには、生前に適切な遺言執行者を選任しておき、相続開始後、この遺言執行者に適法かつ迅速に遺言の内容を実現してもらう必要があります。

 

 

 当事務所では、遺言執行者の選任依頼を承っております。是非お気軽にご相談ください。