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意外と知らない?〜「暴行」と「傷害」の違い〜

こんにちは、青山通信です。
 
今回は「意外と知らない豆知識」シリーズ第2弾です
 
第2弾は、「暴行と傷害の違い」です。

 

 


 

 

皆さん、こんにちは。 弁護士の本間です。 

 

 

「暴行」と「傷害」といった用語は皆さんも耳にしたことがあると思いますが、刑法上の「暴行」と「傷害」の違いを正しく理解している方は意外に少ないのではないでしょうか。

 

 

そこで、今回はこの違いについて解説します。

 

 

 

 

 

 

 

 

1 「暴行」と「傷害」の違い   

 

 

 

まずは、刑法の条文を確認してみましょう。  

 

 

<刑法第204条(傷害)>

人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。  

 

※「傷害」とは、人の生理機能に障害を与えること、又は人の健康状態を不良に変更することをいいます(典型例:怪我など)。  

 

 

<刑法第208条(暴行)>   

暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

 

※「暴行」とは、人の身体に対し不法に有形力を行使することをいいます(典型例:殴る、蹴る、突く、押す、投げ飛ばすなど)。   

 

 

 

 

条文を読んでいただければお分かりのとおり、語弊を恐れずに大まかにいえば、「暴行」を加えたが「傷害」の結果(怪我)が生じなかった場合に暴行罪が成立し、「傷害」の結果が生じた場合には傷害罪が成立します。

 

 

 

要は、「傷害」という結果が生じたか否かという点に違いがあるのです。

 

 

 

 

 

 

2 「暴行」の意外な具体例   

 

 

皆さんは、「暴行」が人の身体への接触を伴う物理力を行使する場合(上記の典型例にあげた、殴る、蹴るなど。)に限られると思っていませんか。

 

 

実は、そうではないのです。

 

 

暴行」は、人の身体に向けられたものであれば足り、必ずしもそれが人の身体に直接接触することを要しません。ただし、少なくとも、相手の五官に直接間接に作用して不快ないし苦痛を与える性質のものであることが必要です。

 

  • 通行人の数歩手前を狙って石を投げつければ、相手に命中しなくても「暴行」にあたることがあります(東京高裁S25.6.10)。
  • 幹線道路における自動車への幅寄せ行為、進路妨害行為、停止車両に対する足蹴り行為などが被害自動車運転者である被害者に対する「暴行」にあたるとされた事例があります(東京高裁H16.12.1)。

 

 

物理力すなわち力学的作用のほか、音響、光、電気、熱などのエネルギーの作用を人に及ぼすものも「暴行」にいう有形力の行使に含まれます。

 

  • 携帯用拡声器を用いて耳元で大声を発する行為が「暴行」にあたるとされた事例があります(大阪地裁S42.5.13)。

 

 

 

 

 

 

3 「傷害」の意外な具体例   

 

 

中毒症状、めまい、嘔吐、病毒の感染、失神などのほか、 最近では、PTSD(心的外傷後ストレス障害)が傷害にあたるかが問題になっていましたが、最高裁判所は、一時的な精神的苦痛やストレスを感じたという程度に止まらず、医学的な診断基準において求められている特徴的な精神症状が継続して発現した事案において(事案の概要は、4名の若い女性をホテルの客室や自宅居室に誘い込んだ被告人が、暴行や脅迫を加えるなどして、各女性を4日間ないし116日間にわたって監禁し、その結果、4名ともに外傷後ストレス障害の傷害を負わせたというものです。)、「傷害」にあたると判断しました(最高裁H24.7.24)。

 

 

 

 

 

 

4 傷害罪が成立するのは「暴行」を手段とする場合に限られるか   

 

 

皆さんもお察しのとおり、傷害罪は、「暴行」を手段とする場合に限らず、無形的方法又は不作為による場合であっても成立することがあります。

 

  • 性病に罹患している者が姦淫行為によって性病を感染させる行為は「傷害」にあたります(最高裁S27.6.6)。  
  • 無言電話などにより人を極度に恐怖させて精神衰弱症に陥らせる行為が「傷害」にあたることがあります(東京地裁S54.8.10)。  
  • 自宅から隣家に居住する被害者に向けてラジオの音声や目覚まし時計のアラーム音を鳴らし続けて、被害者に精神的ストレスを生じさせ、慢性頭痛症、睡眠障害などを負わせた行為が「傷害」にあたるとされた事例があります(最高裁H17.3.29)。

 

 

 

 

 

5 おわりに

 

 

長々と解説しましたが、「暴行致傷」などといった誤った用語を使わないように、「暴行」と「傷害」の違いを正しく理解していただければ幸いです。